河川中の界面活性剤濃度とBODには相関性があった

JSDA環境モニタリング調査10年のまとめとして


■1 なぜ業界で環境モニタリングをしているか

 JSDAの環境・安全専門委員会では、90年代半ばから継続して、河川中の界面活性剤濃度の測定調査を行なってきました。最初は限定的なものでしたが、10年前から第二次調査としてモニタリング調査を続けてきています。
 業界団体がなぜ、長年にわたって手間と時間とお金をかけてきたのかといえば、日本中で誰もそのような調査を継続的にしていなかった。にもかかわらず、“界面活性剤は環境に悪い影響を与えている”という意見だけが、独り歩きをしはじめていたからです。
 界面活性剤の人への健康影響については、比較的早くから明確なデータにより、影響は低いと国際的にも評価されていたので、いずれは環境影響が議論されるだろうことは予測されました。
 であれば、どんな濃度でどんな影響があるのか、科学的にきちんとした調査をしようではないか。自治体でできないなら、メーカー単独でもできないので、業界全体として、JSDAでやろうということになったのです。
 多摩川・荒川・江戸川・淀川の都市近郊主要4河川の5地点(後に7地点)を選んで、年4回にわたる環境モニタリング調査で、界面活性剤濃度を計測してきました。そうしたデータが10年分蓄積されてきたので、その考察を今回学会発表させてもらったわけです。
 河川中の界面活性剤濃度の測定調査・分析はなかなか簡単ではなく、モニタリングを続けているのは、JSDAだけですが、一般的なBOD(生物化学的酸素要求量)の測定調査は、全国各自治体などで広く行なわれています。

■2 界面活性剤の生態リスクは低い

 日本の環境水系は、その利用目的などによってAA、A、B、C…と水質類型で分けられています。調査地点は、Aの「水道2級・水産1級」からCの「水産3級」に該当する場所です。
 環境影響は、水生生物への影響の有無で評価するので、それに適した試験方法で行ないます。水生生物に影響がないと推定される濃度(PNEC)を求め、これを実際に河川で観測される可能性のある界面活性剤濃度の中でも、最も高い水準の値(95パーセンタイル)と比較することで、生態リスク評価は行なわれます。
 こうした環境モニタリング調査を継続してきた結果、LAS、AE、AOの各界面活性剤とも、予測される河川中の界面活性剤の濃度は、上の表1のように、環境に影響がないとされるPNEC濃度よりも、はるかに低いことが確認されました。多くの化学物質のなかでも、こうしたデータが揃っているものは、ほかにはないと思われます。

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表1 界面活性剤の生態リスク評価

■3 下水道普及のおかげでMBAS濃度も低下

 環境水域の汚染状況をみるには、いくつかの指標があります。河川水中の界面活性剤濃度は、いわゆる合成洗剤が普及した当時から注目されており、陰イオン界面活性剤濃度は、陽イオンであるメチレンブルーとの複合体を形成する、という性質を利用して、“メチレンブルー活性物質(MBAS)”として測定されてきました。
 これまでの環境モニタリング調査で得られた、LAS濃度・AE濃度の経年変化データもありますが、ここではよりわかりやすい例として、1963年からの多摩川の田園調布堰におけるMBASとBODの経年変化グラフを、図1に示してみました。

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図1 多摩川・田園調布堰の水質経年変化

 これでわかるように、1960年代末をピークとして、経年的に低下しています。この低下の要因は、界面活性剤自体がABSから微生物の作用によって分解されやすいタイプのLASなどに転換されたことと、下水道の普及によるものです。すなわち、下水処理場で分解除去されて、河川等の環境に放出される界面活性剤の量が減少したことと、河川水中での分解が進んでいることを示しています。
 また、BODの低下は、下水道の普及の結果をよく示しているといえます。下水道普及率は着実に伸びており、なによりもそれが、河川などの公共用水域の水質改善への寄与大であることは明らかです。

■4 BODと界面活性剤濃度の間には相関性があった

 モニタリング結果では、その調査水域についてのリスクは評価できますが、これはあくまでもその調査水域に限られた結果であり、その域を超えることはできません。
 しかし、洗剤の排水が放出されるのはこの調査地域だけではないため、全国レベルで評価することが求められます。そのためには、より広い範囲での河川水中の濃度を調査・考察する必要がありますが、労力と費用の点からも、JSDAと同じような調査を、全国各地について隈なく行なうことは極めて困難です。
 そこで、これまでに調査した結果を適切に解析して、全国レベルでの濃度として解釈する方法を考えました。

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図2 LAS濃度とBODとの相関性

 いくつか検討した結果、得られた調査データをBODの水準別にグループ化して統計的に解析したところ、LASでの事例を図2に示すように、BODと界面活性剤濃度の間には一定の相関性が見出されました。このことは、この相関性を基にすれば、BOD(これは全国のほとんどの自治体で測定されている)の値から、界面活性剤濃度の概要を推定することが可能であることを示唆しています。
 すなわち、界面活性剤濃度の調査がされていない水域でも、BODの値から推定される界面活性剤濃度をもって、全国の河川について概略的なリスク評価をすることが可能となるわけで、今後いろいろな方面で活用できそうです。

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 現時点では、ほとんどの河川等でBODは5mg/L以下で、これらの水域では、界面活性剤が環境水中に棲息している水生生物に対して悪影響を及ぼしている可能性(リスク)は低いと考えられます。河川や湖沼等の公共用水域の健全性を保つためには、界面活性剤を含むか否かにかかわらず、日用品など家庭での消費材の過剰使用(むだ使い)をなくすことなどが必要です。
 それによって、これらの水域に直接放出される排水(汚濁物質)の量を、いたずらに増やすことのないように、これからも心掛けていくことが望まれます。


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